トム・クルーズに届きたい
今更ですが、みんなだいすきなAmazonプライムビデオで、トム・クルーズのあれ観ました。
2014年だからもう5年前か。
これの国内挨拶のときに、トムが道頓堀クルーズ船で水上告知イベントするって聞いて、行ったのを思い出した。
当時は仕事もせずに大阪の街を毎日一人でふらふらしてて、だからこそド平日のイベントにも参加できたんだよね。
出口のない5.5畳のワンルームで世間を呪い、人生を憂いながら過ごしていたある日。夜中にネットを徘徊していたら、偶然にもイベントの抽選告知を見かけた。無料ということで、ハリウッドスターが生で観られるならと野次馬根性でとりあえず応募。イベント前日夜の応募にも関わらず、開催が平日とあって応募者が少ないのか当選メールがすぐ届き、行ってみることに。
堺筋が道頓堀川にかかる位置、日本橋北詰が集合場所だったと思う。そこで係員がチケット番号を確認、誘導され、イベントの開催エリアに向かう。僕がついたときにはもう、数十人ほどだったろうか、参加者がデッキに集まっていた。
道頓堀ドンキホーテ前、リバーウォークのデッキエリアにはロープが張られていて、たくさん警備員もいて、普段と違う様相になっていた。しかし特に現場でイベントの告知はなかったので、道行く人はその立入禁止エリアを見ても「何かあるのかな」ぐらいにしか感じていないように思った。まさか30分後、ここにイーサン・ハントが船で現れるとは誰も思うまい。
こういうイベントの雰囲気、自分にほとんど縁がなく、それこそ金のある一般人のためのものでニートの僕のためではないと思っていて。言葉にならない世間への不満を抱えて、やっぱり世の中の大半のものがニートの自分のためではないと思いこんでいて。ハリウッドスターがどうした。こっちは映画館にすら行けない。「トム、お前に俺のこの悲しみがわかるか」一人でポケットに手つっこんで興味なさそうなフリしながら。
泥の河、道頓堀の上に彼は現れた。
その距離は僕から十数メートル。
ハスキー犬を思わせる、精悍でありながら愛嬌のある笑顔。
まあまあいい年だけど、それでもそのスタイルは若くて美しい。
なんて魅力的なんだろう。世界に選ばれる人間は、それこそ格が違うのか。
気づけば僕は、彼の笑みに呼応するように笑みがこぼれ、ポケットに入れていた右手を彼に向かって振っていた。
幻想のような時間は、あっという間に終わった。
それから、僕は少しだけ変わったのかもしれない。
ラストシーンのケイジの笑顔に、僕はあの日のことを思い出した。
俳優というのは、スクリーンを通して人々に夢を与える仕事だろうか。
つまらない日常に、いっとき夢を与え、それが活力になる。
いつか彼のような存在に届きたい。人を笑顔にできる存在に。
自分が彼の年になったとき、あんな存在になることができるだろうか。
今でも、ときどきそんなことを考える。